アガサ・クリスティ作の長編ミステリー小説『五匹の子豚』のあらすじ、登場人物、感想、クチコミ評価について紹介します。
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作品情報
「五匹の子豚」はミステリの女王アガサ・クリスティ全盛期と言われる1940年代に執筆された長編推理小説です。
大人気シリーズ『名探偵ポアロ』の長編21冊目にあたり、一般的な知名度は高くないものの、クリスティファンの中では根強い人気を誇る作品です。
発表 | 1943年 |
英題 | Five Little Pigs |
ポアロシリーズ | 21冊目 |
ジャンル | 回想の殺人 |
あらすじ
『母は無実だったのです』 ―娘の頼みにポアロの心は動いた。
事件が起きたのは16年前。
若い愛人に走った有名画家の夫を妻が毒殺、裁判の末に獄中死したのだ。
事件当時、まだ幼かった娘の依頼で再調査に乗り出したポアロは、過去へと時間を遡り、当時の状況を再現してゆく。
関係者の錯綜した証言から紡ぎ出された真相とは…。
口コミ・感想
・クリスティ最高傑作の呼び声も納得の完成度
・小手先のトリックだけでない面白さ
・緻密に仕掛けられた伏線が明らかになる場面は圧巻
・ある事象に対し、人の見方がいかに異なるかが描かれる
・謎解きとドラマが密接に繋がっている作品
登場人物
「五匹の子豚」の登場人物一覧です。
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 | |
クレイル一家 | カーラ・ルマルション | 依頼人 エイミアスとキャロラインの一人娘 |
エイミアス・クレイル | カーラの父 有名画家 | |
キャロライン・クレイル | カーラの母 | |
5人の容疑者 (=5匹の子豚) | アンジェラ・ウォレン | キャロラインの異父妹 |
セシリア・ウィリアムズ | アンジェラの家庭教師 | |
エルサ・グリーア (現レディ・ディティシャム) | 資産家令嬢 エイミアスの絵のモデル | |
メレディス・ブレイク(兄) | クレイル夫妻の幼なじみ | |
フィリップ・ブレイク(弟) | クレイル夫妻の幼なじみ |
出版状況
「五匹の子豚」は桑原千恵子さん訳版と山本やよいさん訳版の二種類があります。
桑原さんの旧訳版(2003年)は絶版となっていますが、中古で入手可能です。
2022年2月時点で最新訳版にあたるのが、2010年に出版された山本やよいさんの翻訳版です。
1977年に初版が発行された桑原千恵子さんの翻訳版は絶版となっていますが、中古で入手可能です。
作者
アガサ・クリスティ(1890~1976)
アガサ・クリスティは、1890年にイギリスの裕福な家庭に生まれました。
1920年に『スタイルズ荘の怪事件』で作家デビューを果たし、1926年に発表した『アクロイド殺し』の常識破りのトリックがミステリファンの間でフェアかアンフェアかの大論争を招き一躍有名になりました。
作品の多くは世界的なベストセラーとなり、ギネスブックによって"史上最高のベストセラー作家"に認定されています。
クリスティの魅力は「独創的なトリック」や「人物描写」で、デビューから100年以上経った今なお新たなファンを獲得し続けています。
殺人事件を扱っていながら血生臭さや暴力的な描写が無いのも大きな特徴で、上品さすら漂うのも特徴で、紅茶を片手に優雅に謎解きを楽しめます。
ココが面白い
本作でポアロが挑むのは、物証が何も残っていない16年前の事件です。
ポアロは関係者の証言だけで過去の事件を目の前に浮かび上がらせます。
真実は人の数だけある
「五匹の子豚」では、ポアロが事件の関係者5人の元を訪ね、16年前の事件や犯人とされたキャロラインがどんな人物だったか等について話を聞きます。
5人の証言は概ね同じですが、同じ人物、同じ事実を見ていても、視点の違いや先入観などが原因で人によって解釈が異なり、まさに「真実は人の数だけある」という状況に陥ります。
ダブルミーニング
『五匹の子豚』には『オリエント急行殺人事件』や『アクロイド殺し』のようなあっと驚くような大胆なトリックが無い代わりに、「ダブルミーニング」が効果的に使われています。
ダブルミーニングとは「一つの言葉が、二つ以上の意味を有すること」です。
キャロラインから妹のアンジェラに送られた手紙や、メレディスの手記にあったある記述など、別の解釈が可能な言葉がそこかしこに散りばめられています。
過去作品の人物も登場
リットン・ゴア・伯爵夫人に紹介状を書いてもらうくだりがありますが、こちらは「三幕の殺人」に登場した、エッグの母親です。
コーンウォールのルーマスに住んでいるという設定でした。
タイトルの意味
タイトルである「五匹の子豚」はマザーグースの数え唄からとられたものです。
5人の容疑者は、マザーグースのうたに唄われる子豚の描写をなぞらえています。
「五匹の子豚」の歌詞
This little pig went to market,
(この子豚はマーケットへ行った)
This little pig stayed at home,
(この子豚は家にいた)
This little pig had roast beef,
(この子豚はローストビーフを食べた)
This little pig had none,
(この子豚は何も持っていなかった)
And this little pig cried,
Wee-wee-wee-wee-wee,
(この子豚はウィー、ウィー、ウィーと鳴く)
第一部で、キャロラインの弁護人から五人の関係者について聞いた際、ポアロの脳裏にマザーグースの一節が浮かびます。
① この子豚はマーケットへ行った
→フィリップ・ブレイクはマーケット(=相場)で儲けた
② この子豚は家にいた
→フィリップの兄は家に引きこもっている
③ この子豚はローストビーフを食べた
→エルサは狙った獲物は逃がさない肉食獣のような女
④ この子豚は何も持っていなかった
→セシリア・ウィリアムズが貧しい暮らしをしてきたことはポアロにもわかった
部屋にはローストビーフを食べたことが無い子豚がいるだけだ
⑤ この子豚はウィー、ウィー、ウィーと鳴く
→アンジェラの人生にはウィー、ウィーと鳴かずにはいられないことがあった
まとめ
アガサ・クリスティの隠れた傑作『五匹の子豚』を紹介しました。
ダブルミーニングの仕掛けが秀逸で、ミステリ好きにはたまらない作品であると同時に、事件の真相が明らかになった後の台詞が胸を打つ傑作です。
本作のように過去の殺人事件をテーマにした "回想の殺人" が好きな方は『スリーピング・マーダー』もオススメです。